★猫丸しりいず第125回

●猫丸しりいず第125回
 
◎渡辺浦人:交響組曲「野人」
 
 芥川也寸志指揮 新交響楽団
(国内FONTEC FOCD3265)
 
 以前(結構昔の事)、今やクラシック評論の第一人者となった片山杜秀さんの文章を読んでいたら、片山さんが小学校高学年~中学校の頃の「一番の道楽」として、「テレビで放映される日本映画のテーマ音楽、主題歌、挿入歌の類を片っ端から録音していく事」を挙げておられた。私はこれを読んだ時に、思わず腹を抱えて大笑いしてしまい、「私以外にもこういう事をしていた人がいたとはねえ・・・」と驚いた。そして(片山さんには失礼な話だろうが)、何だか「かけがえのない同志」を得たような気分になり、嬉しくなってしまった。
 
実は私も小学校4~5年位の時に、当時自宅にあったSONYのオープンリール式のテープレコーダー(若い方にはこれがどういう代物かピンと来ないとは思うが)を使って、テレビの音楽を録音する事に熱中した事があったのだ。ただ、私は片山さんとは「対象」が異なっていて、ターゲットは専らアニメや「変身モノ(仮面ライダーとか)」の音楽であったのだが。
 
しかも当時、私はそれらの曲を「誰が作ったのか」という事柄に妙に関心があって、テレビを見ている時に「作曲者名を見逃すまい」と目を凝らしていた。「普通」の子供にはそんなのどうでもよい事であった筈なので、今思えば相当不気味な小学生であったと思う(オタクの萌芽がその頃既にあった訳だ)。
 
中で特に良く見かけたのが「菊池俊輔」「渡辺岳夫」という名前。事実、この2人プラス小林亜星の3名は当時のこのジャンルの「3大巨匠」と言える大家である。「仮面ライダーシリーズ」や「タイガーマスク」等々の名作に代表される菊池俊輔の曲にも相当お世話になったけど、何と言ってもこの世界で偉大過ぎる業績を遺した人は渡辺岳夫。
 
「巨人の星」「アタックNo1」「天才バカボン」「キューティハニー」「ガンダム」そして感涙の名曲「アルプスの少女ハイジ」・・・。あまりに数が多すぎて全てをご紹介しきれないが、放映から40年近く経った今でも親しまれている超名曲ばかり。私は子供心にこの渡辺岳夫という作曲家を大いに尊敬していた。
 
そしてオトナになってからこの作曲家についていろいろ調べてみたところ、なんと彼は大学卒業後パリに留学して、スコラ・カントルム音楽院を卒業・・という意外な経歴の持ち主なのに驚かされた。もう一つ驚いたのが、彼が実は自分のよく知っている作曲家の息子であった事。外山雄三や芥川也寸志の作品と共に、私が初めて聴いた日本のオーケストラ作品が「交響組曲 野人」。渡辺岳夫の父は、この「野人」の作曲者、渡辺浦人(1909~1994)。
 
「野人」は1941年に発表された作品。まさに「日本の土の匂い」に溢れた佳品である(その「土の匂い」は日米開戦直前というキナ臭い時局から「要求」されたものでもあったのだが)。特にホノボノとのどかな第1楽章はいつ聴いても何だかホッとした気分にさせられる。1960年代までは確かに存在した「かつての日本の風景」が思わず脳裏に浮かぶのだ。私が小学生になった1970年あたりを境に、白熱電球→蛍光灯、木製の窓枠→アルミサッシ、汲み取り→水洗便所・・といった具合に現在の「先進国ニッポン」に通じる日常生活での「進化」が顕著になっていくのだが、その陰で失われていった感のある「決して豊かでは無いけど、人情味に溢れたニッポン」を彷彿とさせるのだ。この「野人」は戦中繰り返し演奏さ
れる当時の大ヒット作になったのだが、その事がかえって「仇となった」のか、日本の敗戦後は渡辺浦人は「作曲界の最前線」に立つ事も少なく、教育者として地味な活動をする事となった。平成の世まで長生きをした彼だが、息子の渡辺岳夫が1989年に56歳の若さで父より先に逝ってしまったのは何とも痛ましい。
 
この曲は吹奏楽用に編曲されたりして、以前はもっと親しまれていたように思えるのだが、最近は全く影が薄くなってしまった。「かつての日本の風景」が遠い過去のものになってしまった感のある今、もうこの名作がかつてのようにとり上げられる事は無くなってしまうのだろうか。ちょっと寂しい気もする。今回ご紹介の芥川&新響の盤も現在は入手困難になってしまっている模様。私をクラシック音楽の世界にいざなってくれた「大恩人」とも言える芥川さんは、また改めてこの「猫丸」でネタにする機会を持ちたい。
 
それにしても「平成」になってから早四半世紀とは・・。ああ、「昭和」は遠くなりにけり。

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