★猫丸しりいず第129回

●猫丸しりいず第129回
 
◎シューベルト:即興曲D.899
 
 エリーザベト・レオンスカヤ(P)
(国内TELDEC WPCS21133)
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昨年9月に出版した「猫丸しりいず」の単行本の中のコラムで触れた事だが、クラシック音楽をゆっくり聴ける意外な穴場が実は「飛行機の中」である。
 
飛行機に頻繁に乗る方ならご存知だろうが、長いフライト時間の無聊を慰めるために航空会社は映画、オーディオ等々の様々な機内エンタテインメントを用意しており、近年の充実ぶりは(航空会社によって差はあるが)中々のもの。中には中東ドバイのエミレーツ航空のように、クラシックの名曲多数(数えた事は無いが、200曲位はあるのでは)をいつでもオンデマンドで聴ける・・という凄い会社もある程だ。
 
古今東西の名曲の中、私が飛行機の中でついセレクトしてしまう作品がある。それがシューベルトの「即興曲D.899」。眼下にゆっくりと流れる雲海を眺めながらこの曲を聴いていると、これが実に心に沁みて、「日常」から離れた空の旅にピッタリなのだ。夕焼けに染まる地平線を見ながら「第3番」とかを聴くと、本当に感動してしまう。
 
シューベルトの作品には、「今日はちょっとシューベルトって気分じゃないんだよね」と思っていても、聴き始めるとたちまち体に馴染んでしまう・・という不思議な力がある。交響曲でもピアノ曲でもミサ曲でもそうで、こういう作曲家は他になかなか居ない。日頃のドタバタした繁忙から離れてボ~ッとしていられる機上の時間を過ごすにはまさに好適。そういえば機内で聴く曲目に、例えばブルックナーの「5番」「8番」のような聴く際にかなりのハイテンションを要求される曲をセレクトする事は無いなあ・・。
 
この「D.899」、ピアノ曲としての技巧的難易度はそれ程高くないらしく、「第2番」などは小学生のピアノの発表会の定番となっているのだそうだ。実際私も聴いた事があるけれど、大人顔負けの上手な演奏をする子も少なくない。しかし・・・。この「即興曲」、本当に奥が深い。単に技巧的に達者なだけの演奏を聴いても面白くもなんともないのである。
なぜなのだろうか?
 
彼の作品のもう一つの特色として、「表情の急変」があげられる。D.899の「2番」「4番」や「未完成交響曲」等には、夢見るような美しい表情で進んでいた曲の中に「突然暗闇になって悪魔乱入」といった趣きの、実に「コワイ」部分が突然現れる箇所がある。しかもその「一瞬の黒雲」が過ぎ去った後、何事も無かったかのように元の優しい表情に戻ったりするのだ。歌を歌いながら、途中の特定の歌詞のところだけ瞬時に表情を変えなくてはならない・・・みたいなもので、こういう事には奏者の音楽的センスや「豊富な人生経験」がストレートに反映されやすい。器用に弾きこなすだけなら子供にも可能な「D.899」だが、
この曲の「陽」の部分と「翳」の部分のコントラストを絶妙に描いて聴き手を唸らせるのは並大抵の事では無いようだ。
 
この曲にはルプーをはじめ数多くの名盤がある。今回ご紹介のレオンスカヤの盤も(単に安いので買ってしまったのだが)なかなか良い。グルジアのトビリシ出身のこの名女流、その実績の割に日本では今一つ地味な存在という印象だが、ゆったり目のテンポで弾かれるこの演奏、滋味深い名演で非常にコストパフォーマンスの高い1枚だ。
 
実は私が「一緒に飲みたい大作曲家ベスト1」に挙げたいのがシューベルトだ。短い人生の間に、心地良さと美しさと恐ろしさが同時進行するような凄い作品を数多く遺した彼は、一体どんな心境でこういう曲を生み出したのだろうか。新橋当たりの焼き鳥屋で一杯やりながら訊いてみたい。
「シューベルトさん。貴方は本当はどういう男だったんですか?」
 

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