★猫丸しりいず第139回

●猫丸しりいず第139回
 
◎シューベルト:冬の旅
 
 ヘルマン・プライ(Br) カール・エンゲル(P)
(海外EMI 0878902)
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 「季節」が素材になったり、タイトルになったり・・・というクラシック音楽の名作は数多い。
 
それらの名作のほとんどは、その作品の舞台となっている季節以外に聴いてもあまり違和感無く、「普通」の名曲として楽しめる。「春の祭典」や「アパラチアの春」を、別に夏や秋に聴いたって何の「問題」も感じない。でも中には、「この曲はこの季節に聴かないとどうも・・」と感じてしまう名曲もある。
 
シューベルトの傑作「冬の旅」。あらゆるクラシックの名曲の中でも、この曲ほど「冷やし中華」「そうめん」「すいか」等々が似合わない作品も無いのではないか。そういう「夏を感ずる要素」だとか「明るい陽光」みたいなものを一切寄せ付けないような、冷え冷えとした感触がこの作品には漂っている。
 
周知のように、この曲は失恋した若者が寒風吹く冬の夜にあてども無い旅に出かける・・という情景から始まる。失恋と冬と夜と旅・・・というのは洋の東西を問わず「お約束」の組み合わせであるようで、ドイツ版森昌子か石川さゆり的ワールドという趣きである。全くの余談だが、昔「あずさ2号」という歌が大ヒットした時、作詞した竜真知子さんがインタビューで「失恋の旅に朝8時発の列車で出かけるという発想は新鮮ですね」と訊かれて、「いや、実は私『あずさ2号』って夜の8時に出る列車と勘違いしてたんです」と笑撃の告白をされてた事が妙に記憶に残っている。やはり朝はラジオ体操には似合っても、傷心の旅の出発にはしっくり来ないようだ。
 
この曲は全体が異様な暗さと虚無感に満ちていて、それが「春の賑わい」「夏の陽光」「秋の充実感」といった要素を徹底的に排除してしまう。「菩提樹」のような美しい曲もあるが、それも「厳冬の曇天の中から微かに漏れてくる日差し」のような感触である。この曲を書いた頃、シューベルトは体調にも恵まれず、おカネも無く、加えて敬愛していたベートーヴェンの死も彼に大きな打撃を与える事となった。自身の死について考えていたであろう彼が、この「冬の旅」の詩に大きな共感を持ち、自身を投影させながら作曲したであろう事は想像に難くない。この作品は多大な表現意欲を掻き立てるらしく、膨大な録音があり、一人で何回も録音している名歌手も多い。今回ご紹介の盤のプライもその一人。1961年
、彼が30歳過ぎたばかりという若き日の録音である。あくまでも私の趣味だが、この曲にはあまりに「ウマすぎる」歌唱はそぐわない。「百戦錬磨の訳知り顔のオッサン」みたいな巧妙すぎる歌は、この曲の世界と何か合わない気がする。
 
その点この盤は適度に若者の青臭さが出ていて、昔廉価LPで出ていた時代から親しんでいる名演。また、この曲は伴奏ピアノの役割が非常に重要で、冒頭の「おやすみ」のピアノがヘナチョコだと「あちゃ~」という気分になって主役の歌手が出てくる前に一気に聴く気が萎えてしまうが、名匠エンゲルがさすがの名伴奏ぶり。超廉価で入手可能なのが嬉しいおススメ盤だ。
 
日本国内で「冬の旅」が最も似合うのは、ズバリ青森だと思う。それも津軽が最高だ。日本海の荒波が押し寄せる深浦海岸、あまりの突風に積もった雪も吹き飛ばされてしまう竜飛岬・・。厳冬の時期の津軽であの空恐ろしい「辻音楽師」を聴けば、心の底から「冬の旅」気分に浸れると思うが、果たして実現出来る日はあるか・・・

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