●猫丸しりいず 第51回


◎ブルックナー:交響曲第0番
  
  ゲオルク・ティントナー指揮 アイルランド国立交響楽団
  (NAXOS 8554215~6 2枚組)
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またまた「乗り物ネタ」で申し訳ないが、「0番線」という摩訶不思議なナンバリングをされたホームを持つ駅があちこちにある。
  
一番メジャーな京都駅をはじめ、信州の松本駅、山陰の米子駅、九州の長崎駅、熊本駅等々、地方都市の駅に意外に多く、中でも熊本は0番ホームが更に「A」「B」「C」の3箇所もある・・という恐ろしい構造になっている。関東近辺にはそれ程多くないが、 常磐線(&地下鉄)の綾瀬や、総武本線の成東の駅にあったように記憶している。
  
 
  旅客案内や、列車運行のための「分類番号」にすぎないようなプラットホームの番号に、なぜ「0」という、ある種「哲学的」な数字が使われているのか。この事が気になり、昔「その筋の愛好者」の友人に尋ねた事があった。すると「何らかの事情があって、既存の1番ホームよりも手前にホームを増設したり、元来貨物用だっ たホームを旅客用に転用したりする際に、混乱を避けるために用いられたナンバリングでは」という答え。(ただし、他にも諸説あるようだ。「鉄オタ」の世界も奥が深い)
  
  ウ~ン、確かに後から番線を増設したために、既存のホームの番号が全てずれてしまったら、多大なコストを要し、無用の混乱も生ずる事だろう。いわば「生活の知恵」か? 
  
 さて、クラシック音楽の世界にも「第0番」という名前の作品がある。最も有名なのが、ブルックナーの「交響曲第0番」。実は私は、上記の「0番ホーム」の話が頭にあったためか、この曲は「交響曲第1番」よりも前に書かれた習作・・・と、長らく勘違いをしていた。
  
 
 この「第0番」は、(これまた諸説あるのだが)実際には本来「交響曲第2番」となる筈の作品だったようだ。しかし、完成後にウィーン・フィルの指揮者のデッソフに初演を持ちかけたところ、「この曲、第1主題は一体どこにあるの?」というキツイ一言を喰らってしまい、すっかり自信を無くしたブルックナーはこの曲の初演 をあきらめ、「お蔵入り」にしてしまった。最晩年に彼は若き日の作品を整理している中で、この曲の楽譜を見つけ「全然通用しない単なる試作」だの「無効」だのと記したものの、破棄する事無く残した。
  
   結局この曲は、作曲者の生前には演奏されず仕舞に終わり、ブルックナーの没後30年近く経った1924年にようやく初演された。この「第0番」の「0」が意味するものについては今でも議論の分かれる所だが、駅のホームのような「実用的」な意味合いではなく、まさに「哲学的」な?要素が多いのでは・・と、私には思われる。
  
 
  ようやく功成り名遂げた晩年に見つけた若き日(と言ってももう40歳過ぎていた訳だが)の作品に対し、ブルックナーが「若書きで青臭いし、あまり良い思い出も無いんだけど、でも捨ててしまうのは忍びないんだよね・・・」というアンビヴァレントな感情を持ったであろう事が、この「0」という数字に込められているように 私には思えてならない。
  
 
 それにしてもブルックナーという人、残されたエピソードと作品にこんなにギャップのある作曲家は他にいない。彼にまつわるエピソードから浮かぶ人物像はと言えば、「小心者」「お人好し」「自信無し」「変人」「モテない」。加えてまるで「田舎の校長先生」みたいなあの風貌。こういう人が、なぜ「唯一無二」とも言える 壮大な交響曲群を書けたのか・・。実に不思議だ。
  
  今回ご紹介のティントナー盤、「第8番」とのカップリングだが、この「8番」が一般的に親しまれている版では無く、1887年の第1稿なのが面白い。一般的な「第2稿」も充分巨大だけど、この初稿は所要90分以上の「特盛り」級に巨大な作品で、周囲の理解を全く得られなかった。
  完成当時既に「交響曲第7番」や「テ・デウム」で大成功を収め、作曲家としてのステータスもそれなりに上がっていたにも関わらず、周囲の批判の声に対して「何を言うか! 俺はブルックナーであるぞよ!」と葵の印籠を振りかざすでもなく、素直に改訂をしてしまうところが「小心おやじ」ブルックナーの真骨頂。
  
  あまりのお人好し加減に、思わず頭を撫でてしまいたくなる不肖猫丸であった。

  ではまた次回・・

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