猫丸しりいず第64回

猫丸しりいず第64回
 
J・シュトラウス:常動曲
 
ジョージ・セル指揮 クリーヴランド管弦楽団
(国内SONYCLASSICAL SRCR2549)
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かなり前の話になるが、NHKの衛星放送で放映しているアメリカABCテレビのニュースを見ていたら、こんな話題をとりあげていた。
 
 対米テロの容疑者を拘束していた米軍のグアンタナモ収容所で、収容された容疑者への拷問が行われていた事が大きな問題と
なっていたが、その拷問の中には「音楽による拷問」が含まれていた、という内容であった。
 
 どういう事かと言うと、尋問の際に収容所内で長時間にわたって大音量の音楽を、繰り返し延々と流し続ける事で、
収監者の精神状態を錯乱させる・・・という手法が用いられていたというのである。それはロックであったり、はたまた「セサミストリート」
の音楽であったり・・ そして(当然の事であろうが)その拷問に自分たちの音楽を使われたミュージシャンたち
(メタリカ、ブリトニー・スピアーズ、レイジ・アゲンスト・ザ・マシーンといった面々)から「自分たちの生み出した音楽が
人道に反する行為に使われているのは許せない」という猛抗議が巻き起こった・・・という内容であった。
 
 収容所の中で、一日中延々と「ビッグバードのうた」とかが大音量で流れている情景は、何か妙にシュールで
つい笑ってしまいそうになるが、これが本当に拷問に使われたとなると、これは全く笑い事ではない。
音楽は使い方によっては「凶器」にも「暴力」にもなり得る。
この事は決して忘れてはいけない事だと思う。日常生活の中でも、携帯型プレーヤーからの音漏れが回りの人に迷惑をかけていないか等、
小さな事柄から私たちもお互い気をつけたいものだ。
 
さて、「放っておけば永久にでも繰り返し演奏が可能」という、拷問に使われたら実に恐ろしい曲がクラシック界にもある。
それが今回のテーマ「常動曲」。
 
この曲は、産業革命華やかな頃、ヨハン・シュトラウスが当時話題になっていた「永久運動」をテーマに、
一種の冗談音楽として作ったもののようだ。終結部が無いので、何回でも繰り返しが可能であるが、
さすがにそんな無茶な事をする演奏家はおらず、一回通した後、指揮者が「以下同じ」とか何とかいってオシマイ・・
という「お約束」が成立している。
 
さて今回ご紹介するのはセル盤。
なぜセルなのか。名演だから? 確かにそれもある。
 
しかし、もっと重要な理由が他にある。
 
昔、レコードでこの盤を最初に買った時の事。
この「常動曲」の演奏時間が「5分29秒」となっている事が気になった。通常の演奏時間のほぼ倍である。
まさかセルがそんな超スローテンポで指揮しているとは思えず、「こりゃミスプリントだ」と思い、早速自宅で聴き始めた。
 
問題の「常動曲」、実にセルらしいキビキビした快速テンポ。「ああ、やっぱミスプリだな」と頭の中で結論を出し、
そのまま楽しく聴いていたのだが・・・・・・
 
大きな落とし穴が待っていた。
 
1回通して演奏した後、なんとセルは最初に戻ってもう一度この曲を演奏し出したのである。
何の心の準備も無かった私は完全に意表を突かれ、危なく「エエッ!?」と叫び声を上げる所であった。
「まさかリピートするなんて・・・   フッ・・・ セル爺さん、やられたぜ・・・」。
その時頭上から、「まだまだ修行が足りんな。若造よ」とニヤリと笑ったセルの妙にエコーのかかった声が響いたような気がした。
実演、録音を含めて、この曲を2回リピートした演奏というのを寡聞にして他に知らない。
 
この盤自体も相当にユニークである。一言で言えば「骨と筋肉だけのウィンナワルツ」。
ウィーンの演奏家たちによる豊満な演奏とは対極と思える、贅肉の全く無い引き締まった演奏だ。でもそこに「違和感」が無い。
それどころか「春の声」や「うわごと」は実に凛々しい「男装の麗人」みたいな演奏に仕上がっており、曲の新たな魅力を
発見した気にすらなる。
鉄壁のアンサンブルで進められる「ピチカート・ポルカ」や「こうもり序曲」も、この名コンビの真骨頂だ。
 
私見では、モーツァルトの交響曲やコダーイの「ハーリ・ヤーノシュ」と並ぶ、セル&クリーヴランドを代表する名盤と思うし、
ウィンナ・ワルツの「裏名盤」としても、有名なライナー&シカゴ響盤に比肩しうる素晴らしさである。
この盤が世界初CD化だったようで、それだけ地味な存在なのであろうが、セルのファンはもちろん、多くの方に聴いて頂きたい1枚である。

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