猫丸しりいず第67回

 ネルソヴァ/DECCAレコーディングス 1950-1956
 
 ベートーヴェン:チェロ・ソナタ全集
 ブロッホ:ヘブライ狂詩曲「シェロモ」、荒野の叫び 他
 
ネルソヴァ(Vc) バルサム(P)
アンセルメ指揮 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 他
(独DECCA 4756327 5枚組)
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「女性チェリスト」と言えば、恐らくクラシック・ファンの97%位の方が即座に名前をあげるのはジャクリーヌ・デュ・プレであろう。
確かに鬼気迫る演奏と言い、不幸な病に冒されてわずかの期間しか演奏が出来なかった劇的な生涯と言い、
デュ・プレのインパクトはあまりに強烈だ。
 
 しかし、デュ・プレという彗星の放った輝きの「陰」になってしまった、もう一人の天才女性チェリストがいる。
その人、ザラ・ネルソヴァ(1918~2002)が今回のテーマ。
 
 ロシア出身の両親のもと、カナダのウィニペグに生まれた彼女は、少女の頃から天才と謳われ、
わずか12歳でサージェント指揮のロンドン響とラロの協奏曲を共演。
1940年に二十歳そこそこでトロント交響楽団の主席奏者に就任。カザルス、ピアティゴルスキー、フォイアマンらの巨匠たちに認められ、
ソリストとしても大成功を収める。
 
 
そんな輝かしい経歴を持ち、80歳以上まで長生きをした彼女が今やまるで忘れ去られた感じになっているのは、
後半生を主に教育者として送った事や、残された録音の多くがステレオ録音の実用化直前の1950年代前半までのモノラル期に
集中していて、後にステレオ盤が市場を席捲する中、非常な不利を蒙った事などがあげられるだろう
(主要な録音が1950年代前半までに集中した結果、今日「損」をしている名演奏家は他にも多い)。
 
 今回ご紹介のDECCAの5枚組セットは、まさにその1950年代前半、30代という恐らく演奏家としての彼女の全盛期に遺された録音を
集大成した貴重な一組。
 ベートーヴェン、コダーイのソナタや、ドヴォルザーク、サンサーンス、ラロ、バーバーの協奏曲等々、チェロの主要曲が
ギッシリ詰まった曲目を見るだけで、録音当時の彼女の存在の大きさが感じられる。
 
 「シェロモ」の演奏に感嘆したブロッホが、ネルソヴァを「マダム・シェロモ」と呼んで絶賛したエピソードは有名だが、
彼女は確かに「マダム」という呼称がピッタリの上品な美人である。ところがその演奏は、容姿から連想されるような
「たおやか」な感じは薄く、実にキリリとして男性的ですらある。
なんだか「頼れる姐さん」(決して「姉さん」ではない)という風情で、本当に魅力的なのだ。
 
 たとえばドヴォルザークの協奏曲。過剰な「媚び」や「泣き」のようなものが一切なく、実に凛々しく、清々しい演奏。
名匠クリップスの指揮も良く、何度聴いても飽きない名演。作曲者絶賛の「シェロモ」は、まさに「入魂」という他ない素晴らしさだし、
ベートーヴェンのソナタも、特に「2番」「3番」あたりが最高だ。バッハの「無伴奏」が全曲残されなかったのが誠に惜しい。
 
 ネルソヴァのファンには熱烈な人が多いようで、この盤のトゥリー・ポッター氏のライナーノーツからも「ネルソヴァ命」という
妙な熱気が立ち昇っているのが何だか微笑ましい。前述のようにモノラル録音であるが、DECCAらしく実に素晴らしい音質であるし、
何よりも演奏自体の感銘の深さには、モノかステレオかなどという問題など瑣末な事に思われる。
私自身、かつては「ステレオで無い」というだけの理由で、モノラル録音盤を敬遠していた時期があったのだが、
それがいかにもったいない事であるかを教えてくれたのもこのセットだ。
 
 忘れ去られるにはあまりにも惜しい「チェロの女王」(ライナーノーツより)ネルソヴァ。皆様にも是非お聴き頂きたい。

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