猫丸しりいず第68回 「ベームと奈良と王貞治」

「ベームと奈良と王貞治」
 
サンサーンス:動物の謝肉祭
カール・ベーム指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(国内DG POCG90077 ※旧規格 現役盤はUCCG4160)
 
チャイコフスキー:交響曲第4番
カール・ベーム指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
(独ORFEO C608032B)
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今回のタイトルを見て、「何じゃコリャ」と思われる方は多いだろうが、
人間、立て続けに起こった印象的な事件が、妙に関連づけられて記憶に残ってしまう事がある。
 
今回は個人的な思い出を綴る事をお許し頂きたい。
何しろ大昔の事なので、多少の記憶違いはあるかもしれないが、その点はどうかご容赦を。
 
今では想像も出来ないが、巨匠カール・ベーム(1894-1981)の晩年の日本での人気は異常と言える程で、
それは最後の来日となった1980年10月の公演の際にピークに達していた。
もちろんその後もヨッフム、ヴァント、チェリビダッケ等々の晩年の来日が大きな話題になった事はあったが、
それはあくまでクラシック音楽ファンという枠内の出来事にすぎず、ベームの時のような一種の「社会現象」と
形容出来る程の凄まじさは無かったように思う。
 
当時私は高校生だったが、その来日公演の翌月11月は修学旅行であった。
その頃の東京の公立高校の修学旅行と言えば、まだ専ら京都&奈良であり、私も懐かしの「0系新幹線」に乗って関西へと出かけて行った。
 
ベームとウィーン・フィルのコンサートの模様が、たまたまその修学旅行中にテレビ放映される事となり、
宿泊先の奈良の旅館のテレビでクラシック好きの同級生たちとそれを見た
(その中には、高校生の「可処分所得」からすれば超破格と言えるチケットを購入し、実際にコンサートに行った猛者も居た)。
 
86歳のベームは、さすがに衰えが顕著で、もはや自分の抱く音楽のイメージをオケに伝えることが肉体的に困難になっているように見受けられ、
少々痛々しかった。そんな中でもウィーン・フィルの面々が、その不自由な棒からベームの表現したい「音楽」を何とか汲み取って
演奏しようとしている事は感じられ、その事は両者の絆の強さを感じさせて感動的ではあったのだが、
ベートーヴェンの2番、7番という躍動的な曲目のプログラムは、この時点のベームにはちょっとツライものがあったのでは・・・と今でも思う。
 
そして、この旅行中に起こったもう一つの重大ニュースがあった。
 
それは「王貞治の現役引退」である。
 
王さんはこの年も確か30本位の本塁打を放っていて、「来年も現役を続け、900本塁打を目指す」と思っていた人が多かったので、
突然の引退表明は大きな驚きであった。大アンチ巨人であった私も王さんは大いに尊敬していたので、このニュースには衝撃を受けた。
当然、旅行中の同級生の間でもこの話題でもちきりだった。
 
その時、私も含め級友の皆が感銘を受けていたのが、引退を決意した理由として王さんが語った「王貞治としてのバッティングが出来なくなったから」
という言葉だった。
あくまでも自分に高い目標を課し、納得出来なくなったら潔く身を引く。
毎日バカな事ばかりやって先生方の手を焼かせていた、しょうもない高校生たちに、
恐らく初めて「オトナの世界」「プロの世界」の厳しさを垣間見せてくれたこの言葉。
友人がポツリと漏らした、「俺、こういう言葉が似合う大人になれるんだろうか・・」という一言が今でも忘れられない。
 
あれから長い歳月が経ち、私も王さんが現役引退した歳をとっくに越えてしまったが、そんな「立派な大人」になれたかと言えば、
甚だ心もとない状態なのは誠に遺憾である。
 
そんな訳で、私の中では「ベーム」「奈良」「王貞治」の三者がそれ以来分かちがたく結びついてしまったのである。
 
さて、ベームの名盤といえば、DGやDECCAに録音したドイツ・オーストリア系の作品を挙げるのが「王道」とは思うが、それではあまり面白くない。
そこで今回はベームの「裏名盤」を2点ご紹介。
一点目の「動物の謝肉祭」と「ピーターと狼」は、ベームのみならずウィーン・フィルにとっても極めて珍しい曲目。
どちらもオーケストラの実力が曝け出されてしまう難曲だが、ウィーン・フィルの名手たちと、ピアノのコンタルスキー兄弟の妙技はサスガと言う他なく、
まさに「聴き惚れて」しまう。「キッチリ楷書で書きました」という感じのベームの指揮ぶりを多少窮屈に感じる方もいるだろうが、
「ベーム&ウィーン・フィルの名盤は?」と問われたら、ハイドンの交響曲第88~92番と並び、躊躇なく挙げたい1枚である。
 
もう一枚は、チェコ・フィルに客演し、ザルツブルク音楽祭に登場した際の1971年8月8日のライヴ。
前述の「最後の来日公演」から私の抱いていた「ベーム=ヨボヨボ爺さん」という固定観念を根底から打ち砕いた、凄いチャイコフスキーである。
 
最初から最後まで「無意味な音が一音も無い」(宇野功芳さん風だが)濃ゆい演奏。
「渾身」という言葉がこの上なく似合う。多少の粗さはあるが、管楽器をはじめとするチェコ・フィルの音色も実に魅力的。
終演後の聴衆の大喝采も頷ける。自分も当日のザルツブルクの聴衆の一人になったような興奮を味わえる、希有の一枚だ。
この盤、2枚組で当日のもう一曲であるギレリスと共演の「皇帝」も収録されている上、その「皇帝」の第2楽章のリハーサル風景まで収録されている贅沢な内容。
ムラヴィンスキーやフィストゥラーリと並ぶ「チャイ4」の名盤として、何回でも聴きたい逸品である。
 
今回はここまで・・・


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