猫丸しりいず第69回

 ◎ブラームス:セレナード第1番/モーツァルト:交響曲第41番「ジュピター」
 
 アンドレ・ヴァンデルノート指揮 パリ音楽院管弦楽団
(国内DIWCLASSICS DCL1011 2010年12月08日発売)
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アンドレ・ヴァンデルノート(1927~1991)という指揮者をご存じだろうか?
 
恐らく、レコード時代からのベテランのクラシック・ファンの方にはある程度知られていても、
若い年代の方には余り馴染みの無い名前であろう。
 
ヴァンデルノートは、世代的にはサヴァリッシュ、スクロヴァチェフスキ、フレモー等のちょっと後輩、
マゼールやハイティンクのちょっと先輩・・・という位置付けになる。
 
 1951年、24歳の若さでブザンソンの指揮者コンクールに入賞して一躍注目を浴び、その後EMIをはじめ、
様々なレーベルに少なくない数の録音を行なったこの人、どういう訳か1960年代後半には、
順風満帆に見えた華やかなキャリアを自ら絶って楽壇の表舞台から消え、その後は郷里ベルギーの
ローカル・オケ等で地味に活動を続けて、人々の記憶から薄らいだまま1991年に亡くなってしまった。
 
彼がまだ幸運だったのは、ハイドシェックやシフラといった、日本で根強い人気のあるピアニストとの共演盤が
長くカタログに残っていたために、「完全に忘却される」状態だけは免れた事である
(ただ、それらの盤のライナーノーツには、指揮者のヴァンデルノートに関してはタダの一言も触れられていないケースが多く、
「あんまりじゃないか」とも思ってしまうが)。
 
数年前にベルギーの放送オケを振った放送音源がまとめてCD化され、マニアの度肝を抜いた事があったが(今でも入手可能)、
いかんせんオケがあまりにB級すぎた。
彼が「主役」の商業録音は、最早CDでの復活は絶望的・・・と私は諦めていたのだが、
今回マニアの間で「幻の名盤」として知られる録音が、全く思いがけずCD化された。
しかも当ディスクユニオンの自主製作盤「DIW」の久々の新譜としてである。
 
この「猫丸」において、自分の勤務先が出した商品であるCDをとりあげる事は、正直かなり「宣伝臭芬々」で気恥ずかしいのだが、
何しろ自分自身が待望した品物で、しかもそれが演奏、音質とも実に素晴らしい内容なので、意を決してご紹介する事とした次第。
 
この盤、「ジュピター」に関しては、「後期交響曲集」という形でCD化された事があるが、ブラームスは世界初CD化。1956~1958年のモノラル録音。
両曲とも、溌剌かつ颯爽とした指揮と、今ではもう聴けない純フランス風のオーケストラの響きが他では得られない味わいを出している。
特にホルンをはじめとする管楽器の素晴らしさ!
 
昔のフランスのオケによるブラームスと言えば、マルケヴィッチがラムルー管を指揮した「交響曲第4番」(DG)が忘れがたい。
その管楽器の独特の響きは、特に第1、第2楽章で比類なき味わいを発揮し、「この曲って、こんなに色っぽい曲だったのか」と感嘆させられた。
ドイツ風の重厚な名演とは全く異なる魅力が、曲から引き出されていたのである。
 
この「セレナード第1番」の演奏も、ドイツやイギリスのオケによる、くすんだ色彩の演奏に慣れた耳には最初は違和感があるだろうが、
聴き進む内にその独特な魅力に惹かれ、「ああ、こういうやり方もアリだな」と思われる方がきっと多いのではないか。
曲の持つ田園的な雰囲気と、オケの独特の「ふんわり」した響きが絶妙にマッチしている。
「ジュピター」は実に若々しい。以前この連載でとりあげたカッチェン&ケルテスの「グリーグのピアノ協奏曲」にも通じるが、
多少荒削りでも、才能溢れる若手がその才気をストレートにぶつけたような演奏で、
巨匠指揮者による精緻で完成度の高い名演とは全く異なる味わいがある。
これまたオケの華やかな音色が実に良く、「36番」とか「40番」なんかもぜひ聴いてみたい・・と思うのは、私だけではないのではないか。
 
ヴァンデルノートがなぜその華やかなキャリアを自ら棄ててしまったのか、真相はわからない。
ただ、彼は(確かハイドシェックの言葉だったと思うが)「仕事はなるべくサッサと終わらせて、早く酒を飲みたい」というタイプだったらしく、
生き馬の目を抜くような苛烈な競争を勝ち抜いて・・・という様な世界に生きるには、あまりに「自由人」でありすぎたのかも知れない。
カッチェンのように「宿痾に冒されて志半ばで道を閉ざされた」とかではなく、多くの選択肢の中から自分で選んだ結果であるのであれば、
それは本人にとって「正しい選択」だったのだろう。
 
しかし、その事が、後の1970~90年代にかけて怒涛の勢いで溢れた音盤の中で、彼の録音がすっかり埋もれてしまう結果を招いてしまった点は、
我々聴き手には非常に残念な出来事と言わざるを得ない。
EMIへの数々の録音の他、コマンドレーベルに残した「展覧会の絵」や「幻想交響曲」などCD化を望みたい音源は多いが、
録音年代の古さ等々、壁も多そうで実現は容易ではないだろう。
だからこそ、今回の復刻は誠に貴重。ベテランのファンの方はもちろん、レコード時代を知らない若い世代のクラシック・ファンの皆さんにも是非お聴き頂きたい逸品である。
 
同時発売の「パリのモーツァルト」からのピアノ名曲集(DCL1012/オリジナルLPが眼球飛びだすような高額になっている事でも有名な録音)とともに、
ディスクユニオンの店頭にてお求め頂けます!!
 
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