猫丸しりいず第76回

マレ:膀胱結石手術図
 
ニコラウス・アーノンクール指揮 ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス
フランツ・アーノンクール(語り)

(国内タワーレコード/TELDEC WQCC198「バロック期の標題音楽集」)
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「音楽による物事の描写」と言えば、「俺はコップ1杯の水でも音楽で描いて見せる」と豪語したという
リヒャルト・シュトラウスをつい思い浮かべるのであるが、実は彼の200年も先輩で「西洋古典音楽の先駆者」と言える人々が、
既にユニークこの上ない標題音楽を色々と作っていたのだ。
 
その中でも極めつけの珍曲が、マラン・マレ(1656~1728)の「膀胱結石手術図」。
タイトルが強烈すぎる。以前この連載でとりあげた「朝7時に湯治場の二流楽団によって初見で演奏されたさまよえるオランダ人序曲」(ヒンデミット)と双璧と思えるインパクト充分の曲名だ。
マレと言えば大バッハのちょっと先輩。ブクステフーデやパーセルといった「クラシック音楽史最初の大物」たちと同世代の人。
そんな「昔」の人が何でまたこんなブッ飛んだ曲を・・・・
 
この曲、手術そのものの描写ではなく、手術に臨む患者の不安な心理を描いたと思われる曲。
ただ、その「不安」とか「恐怖」は我々現代人とは全く次元の異なるレヴェルと想像出来る。
何しろ当時はまだ「麻酔」というものが無く、この手の外科手術も何と「麻酔無し」で行われたと言うのだから、
想像しただけで脂汗が出て来そうな話である(ちなみに華岡青洲が世界初と言われる全身麻酔の手術を行なったのは1804年。
既にベートーヴェンの時代だ)。
この5分程の小品、前半はナレーターの重々しい語りと共に、不安感タップリのおどろおどろしい音楽が展開される。
ところが後半は、打って変わって「快癒」というタイトルのついた軽やかな舞曲調の音楽になってしまうのがかえって可笑しい。
 
これが「治って良かったですね」という素直な描写なのか、「こんな風に快癒する事なんて滅多に無いんだけど」という皮肉なのかは分からない。
ただ、手術は麻酔抜き、術後の衛生管理もかなりアヤシイ・・・という当時では、「手術しないリスク」より「手術を受けるリスク」の方がむしろ高いんじゃないか、と思える程なので、私はこの後半はマレの「皮肉」なんじゃないかと思えてならない。
 
この盤、今や大巨匠のアーノンクールの初期(1969年)の録音。まだこの人がトンガッた「闘士」ととらえられていた頃のもの
(昔「ハルノンクール」と表記されていた事をご記憶の方もいらっしゃるだろう)。いかにもこの人らしい、傑作の企画盤である。ナレーターは指揮者の弟さんとの事。
 
この曲以外にも、「元祖動物の謝肉祭」みたいな傑作、ビーバーの「描写的ヴァイオリンソナタ」など、面白い作品が目白押し。
ちなみにこのビーバーの作品と、CDの最初に入っているファリーナの「常軌を逸したカプリッチョ」(このタイトルも素晴らしい)には、
いずれも「にゃおにゃお」と鳴く「猫」が登場! 「猫」ってやっぱり音楽にしやすいんですね・・・・
 
永らく入手困難で寂しい思いをしていたこの名盤、最近タワーレコードの企画盤として復活(しかも安価)し、狂喜乱舞。タワーさん、感謝です。
珍曲マニアはもちろんの事、普通の?バロック好き、クラシック好きの方にも広くおススメ出来る1枚だ。

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