猫丸しりいず第77回

ヴァイル:七つの大罪
 
マリアンヌ・フェイスフル(Vo)
 デニス・ラッセル・デイヴィース指揮 ウィーン放送交響楽団
(米RCA 82876-60872-2)
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今回は第77回。そこで「7」にちなみ、「七つの大罪」がテーマ。
でも、そもそも「七つの大罪」とは何ぞや?
 
キリスト教で、人間を罪に導く恐れがあるとして戒められている七つの欲望や感情、それが「七つの大罪」。
ちなみに列挙すると「怠惰」「高慢」「憤怒」「飽食」「姦淫」「貪欲」「嫉妬」・・・・ イヤ~、こう並べると何か迫力ありますな~・・・
「私は堂々七冠王だ!」という人は少ないにしても、一つや二つは皆「耳が痛い」項目があるのではないか。
 
クルト・ヴァイル(1900~1950)の作品は、この「七つの大罪」をストレートに題材とした宗教色の濃いもの・・・・では全然無い。
「マック・ザ・ナイフ」をはじめとする数々のヒットソングを生み出したこの人らしい、楽しく、可笑しくも、皮肉に満ちた傑作である。
ユダヤ人のヴァイルは、1933年3月にナチ政権下のベルリンを命からがら脱出し、パリに落ち着く。
その年の6月に、そのパリのシャンゼリゼ劇場で初演されたのが、このユニークな名曲。
初演指揮者はヴァイルの盟友で、この後アメリカに渡ってマーラー演奏のパイオニアとして名声を博した巨匠
モーリス・アブラヴァネル(この人もユダヤ系)であった。
 
この曲はプロローグとエピローグの間に「七つの大罪」それぞれのタイトルを持つ7曲を挟みこんだ9曲から成る。
台本はヴァイルとのコンビとして知られる劇作家ブレヒトで、この曲は二人が共作した最後の舞台作品となった。
物語の舞台はアメリカで、ルイジアナの貧しい姉妹が都会で一旗上げて、故郷にデッカイ家を建てる・・・という野望のもと、
アメリカの7つの大都市(ロサンゼルス、ボルティモア、サンフランシスコなど)を放浪しながら健気に(図太く?)生き抜き、
最後には目論み通りにルイジアナに家を建て、ああ目出たし目出たし・・・という実に人を喰ったようなオハナシ。
「お金」が万能の資本主義社会の矛盾を風刺した内容となっているのだが、そういうストーリーを知らなくとも、
何しろ無類のメロディメーカーのヴァイルの作品らしく、つい鼻歌で歌ってしまいそうな愉快な歌のオンパレードなので、
単純に聴くだけでも充分楽しめる曲となっている。
 
今回ご紹介の盤は、唯一無二のユニークな怪演&名演。
何と言っても、主役の女性歌手に通常のクラシックの歌手ではなく、ストーンズのミック・ジャガーの愛人だった事もあるイギリスの歌手、
マリアンヌ・フェイスフル(1946~)を起用した、驚きの1枚である。
この大物歌手、クラシック・ファンの方にはほとんど知られていないと思われるので簡単にご紹介すると、
名家のお嬢様として生まれるも幼い時に両親が離婚し修道院で育つ。10代で芸能界デビューし、ポップスのアイドル歌手や女優として人気を博すも
20歳代後半にドラッグとアルコールに嵌って地獄を見るが、その後見事に歌手として復活。
でもその歌声は、以前のエンジェル・ヴォイスとは似ても似つかぬハスキーなしわがれ声に変わってしまっていた・・という、
まさに「七つの大罪」を歌うにふさわしい波乱の人生を歩んだ人だ。
 
そのドスのきいた歌声は誠にインパクト絶大で(ソプラノとかアルトとかじゃなく、まさに「フェイスフルの歌」としか分類しようが無い)、
最初は「うおッ」と後ずさりしてしまう程なのだが、その一種「投げやり」な雰囲気が曲に妙にマッチしていて最後まで一気に聴かせてしまう。
D・R・デイヴィースのシャープな指揮ぶりも秀逸。ブルックナーやハイドンの交響曲シリーズの好評で、ようやく実力相応の人気が日本でも出て来た・・
と思うこの指揮者だが、やはり彼の本領は近・現代の作品だと認識させる名演である。
 
ただ、「使用上の注意」を申し上げると、この盤、「七つの大罪」の「最初の1枚」としては決しておススメしない。
まずはティルソン・トーマス指揮ロンドン響(SONY)あたりのスタンダードな名演(この盤、カップリングの「三文オペラ」組曲がまた最高)を聴いてから、
この異形の名盤に接して頂きたい。

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