猫丸しりいず第81回

●猫丸しりいず第81回
 
◎ベートーヴェン;交響曲全集
 パウル・クレツキ指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
(チェコSUPRAPHON SU4051-2 6枚組/2011年3月発売)
 
◎ラフマニノフ:交響曲第3番
 パウル・クレツキ指揮 スイス・ロマンド管弦楽団
(豪DECCA/ELOQUENCE 4767692)
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クラシック音楽ソフトの低価格化が著しい今となっては全くの「昔話」となってしまうが、
私が中高生だったレコード時代は、例えばマーラーやブルックナー等の長大な曲1曲を購入するだけで5,000円前後の出費を覚悟せねばならず、
そうそう軽い気持ちでソフトに手を出す事など出来なかった。
 
そんな訳で、おカネの無い中高生としては、どうしても廉価盤を購入のメインに据えざるを得ない。
最初私は「演奏が二流だから廉価なのか」と思っていたのだが、実際にはそんな事は無く、むしろEMIのクリュイタンスのベートーヴェンと
バルビローリのブラームスという名交響曲全集をはじめ、フリッチャイ、マルケヴィッチ等々、廉価盤で出あった名演奏家は少なくない。
 
中でも自分にとって「廉価盤の巨匠」と呼びたくなる名指揮者が2人いる。一人はこの「猫丸」の第53回でとりあげたルイ・フレモー。
そしてもう一人が今回のテーマ、パウル・クレツキ(1900~1973)だ。
 
ポーランド出身のこの巨匠、残念ながら日本では全く人気が無い。
最初は作曲家として才能を認められ(NAXOSから作品集も出ている)たが、ファシズムの台頭はユダヤ系のこの人を直撃し、
当初活動の拠点としていたドイツからイタリア→ソ連→スイスと逃避行を繰り返し、その間に肉親をホロコーストで殺害され・・という過酷な人生を送った苦労人だ。
この経歴に名指揮者カレル・アンチェルを連想する方も多いだろう(アンチェルとクレツキは同じ1973年に亡くなっている)。
 
そのアンチェルが首席を務め、黄金時代を迎えていた時期のチェコ・フィルと共演して、クレツキが天下の名盤ベートーヴェンを遺した事には
何かの「縁」を感じてしまう。
星の数ほど存在する「ベートーヴェン交響曲全集」の中で、「演奏の素晴らしさ」と「知名度」の間のギャップが最も大きいものが、
このクレツキ&チェコ・フィル盤では無いだろうか。
1964~8年に亘って録音されたこの全集、「しなやかさ」「迫力」「明晰さ」「力強さ」等を全て兼ね備えた歴史的名盤で、
ずっと「知る人ぞ知る」という存在にとどまっているのが全く惜しい。
クレツキの指揮には曖昧さが全く無く、常に「ここはこう演奏するんだ」という意志がビシビシ伝わって来る。
チェコ・フィルの演奏も最高。アンサンブルがビシッと決まっているが「窮屈」な感じが全く無く、「ヤル気満々」で伸び伸びと楽しそうに演奏しているのが快い。
 
手に汗握る渾身の名演に、終わった後思わず「ブラボー!」と叫びたくなる「5番」、「颯爽」という言葉がピッタリの「英雄」、
充実感溢れる「第9」の3曲を筆頭に、どの曲も最高の一言。スタンダードでありながらスケールが大きく、しかも古臭さが全く無いこの全集をお聴きになれば、
きっと多くの方が「そう、ベートーヴェンってこうじゃなくっちゃね」と思われるだろう・・・と信ずる。
 
クレツキは、アンセルメの後任のスイス・ロマンド管の音楽監督を務めた事でも知られる。
ニッチな音源のCD化でマニアを喜ばせる豪ELOQUENCEだが、まさかこのコンビによるラフマニノフがCDとして出るとは考えてもいなかった。
この「第3番」も実に素晴らしい。第1楽章の第2主題、チェロで歌われるいかにもラフマニノフらしい名旋律。
ここの「歌い回し」が絶妙の一言!(ドルチェ・カンタービレという指示がそのまま音になったようだ)。
アンセルメの後任というあまりに不利なポジションゆえか、この時期のクレツキの仕事はほとんど無視されている感があるのはこれまた残念。
もう少し長生きしてこのオケともっと仕事が出来たら、新たな境地が開けたかも・・・・ 惜しい。
 
それからこの人はマーラーの権威としても知られるが、ウィーン・フィルとの貴重な録音の「交響曲第1番」(EMI)が現在入手困難なのが実に残念。
これも廉価盤ではお馴染みのアイテムだったのだが・・・ 
ともあれ、今回のベートーヴェンの再発売を機会に、この巨匠の芸術がもっと評価されてほしい・・と熱望する不肖猫丸である。

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