猫丸しりいず第83回

◎スメタナ:弦楽四重奏曲第1番ホ短調「わが生涯より」・第2番ニ短調
 
 スメタナ弦楽四重奏団
(国内DENON/COCO73096 BLU-SPEC CD)
 
◎スメタナ:交響詩「リチャード3世」「ヴァレンシュタインの陣営」「ハーコン・ヤルル」他
 
 ラファエル・クーべリック指揮 バイエルン放送交響楽団
(国内DG UCCG3960)
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東日本大震災の発生から2カ月。
あの日以来多く聞かれたのが、「平凡な日常がこんなにも貴重なものとは思っていなかった」という言葉。私も同感である。
そして、それ以上に災害、病気、事故など様々な原因で平穏な日常があっという間に崩壊してしまう事の恐ろしさが身に沁みた。
 
「日常の突然の崩壊」と言うと、反射的に頭に浮かぶ名曲がある。
それはスメタナ(1824~1884)の傑作、「わが生涯より」。
 
周知のように、スメタナは50歳の時、聴力を失ってしまう(梅毒に罹った事が原因らしい)。
自覚症状が現れてから実際に失聴するまでの期間については文献によって記述が様々で、本当の事はよくわからないが、
いずれにせよ非常に短い期間で聴力を失ってしまった事は確かなようだ。
聴力の喪失という、作曲家にとって致命的な状態に陥りながら尚「わが祖国」や、この「わが生涯より」という名作を書きあげた精神力は、
私のような凡人には想像も出来ない凄さだ。それにしても、「もはや自分の耳で聴く事の叶わない曲を作曲する」というのは、
いったいどんな心境なのだろうか?
 
冒頭にヴィオラが弾く「抗えない運命の力」を現すような旋律が非常に印象的なこの曲は、
スメタナが自身の波瀾に満ちた人生を題材にした「自伝的作品」(各楽章にスメタナ自身が細かい説明をつけている)。
弦楽四重奏という形式の曲で、こういう「私的」な作品は非常に珍しいのでは。
 
この曲は何と言っても終楽章が印象的。
民族的な要素を音楽に採り入れて成功をおさめ、八面六臂の活躍をしていたスメタナに突如降りかかった失聴という不幸を描いた部分。
楽しげな舞曲がいきなり中断され、耳鳴りを表す高いヴァイオリンの持続音が「キーン」と響き、
続いて曲の冒頭の「抗えない運命」を思わせるあの旋律がまた鳴り響く。
この部分の展開は実にショッキングで、後年の表現主義の音楽を先取りしているように思われる程。
曲は「かすかな希望の光」を探るように閉じられるが、実際には彼の病状はどんどん悪化し、10年後には精神異常を来たして亡くなってしまう。
なんと過酷な運命か・・・
 
スメタナ四重奏団の盤は、演奏の素晴らしさはもちろんの事、他の多くの競合盤がドヴォルザークの「アメリカ」等の有名曲との、
ある種「安直」なカップリングに走っている中、あえてスメタナの「第2番」を収録している点が誠にポイント高く、彼らの「自負」を感じさせる。
シェーンベルクに影響を与えたと言われる「2 番」の音源は意外に少ないし、本来この「1番」「2番」はセットで聴かれるべき作品。
文句無しにお薦めである。
 
今回のもう一枚は、スメタナがまだ30歳代の時にリストの影響を受けて作曲した3曲の交響詩を集めた盤。
彼の作品は、晩年のものにあまりに人気が集中していて、若い頃の作品がほとんど顧みられないのは残念。
この3曲、荒削りではあるが実に聴きごたえのある勇壮な作品ばかり。「わが祖国」の好きな方には特におススメしたい。
クーべリックの指揮も最高。オーバーヒート気味の熱血演奏に興奮間違いなし。
そう言えば以前クーべリックのライヴ録音が多数発掘された時に、「この人はライヴは面白いが、スタジオ録音はツマラナイ」という「風説」が
まことしやかに流れたが、この盤や「スラヴ舞曲」「タラス・ブーリバ」等々の熱演を聴けば、それがまさに「風説」にすぎない事が実感出来るであろう。
この盤には、スメタナの最後の作品となった小品「プラハの謝肉祭」も収録されている。
スメタナの死の年に初演されたが、精神錯乱の症状が悪化していた彼には、もはや作品が演奏された事を認知する事は不可能になっており、
初演の2ヶ月後に亡くなってしまう。これだけの仕事をやり遂げながら、それを回顧する事も出来ない状態で死んでいったスメタナ。
「壮絶」の一言だけど、無念だっただろうな・・・・

diskunion新宿classic 桂猫丸

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