猫丸しりいず第84回

マーラー:交響曲第5番、黛敏郎:曼荼羅交響曲 他
 
山田一雄指揮 NHK交響楽団
(国内NHKDVD/NSDX13655 2枚組DVD)
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ここ数年、「再評価」という次元を通り越して、一種の「ブーム」の様相すら呈している「ヤマカズさん」こと山田一雄(1912~1991)。
私も昔、ヤマカズさんのステージに接して大きな感銘を受けた一人だ。
 
私がヤマカズさんの実演に初めて接したのは、忘れもしない1985年2月のN響定期公演。
もともとはスウィトナーが振る予定だったのが、病気による来日中止で急遽ヤマカズさんの代演となった公演である
(N響とは疎遠と言って良かったヤマカズさんになぜ代演指揮者としての白羽の矢が立ったのかは今でもわからない)。
 
当時私は山田一雄という指揮者の存在はもちろん知っていたものの、何しろ「代役」であるから何の期待も無く、ただ「チケット代がもったいないから」というだけの理由で
NHKホールへと出かけた。そのコンサートが、自分の音楽観さえ変えるような、生涯忘れ難いコンサートになったのだから面白い。
 
前半のモーツァルトの「プラハ」のしなやかな名演にまず感心してしまったのだが、後半のマーラーの「5番」で完全に圧倒された。
この「5番」がヤマカズさんにとって特別な意味を持つ大切な曲である事を知ったのは随分後なのだが、とにかく曲への思いの深さをブチまけるような凄演を
ただ固唾を飲んで聴く他無かった。
終演後、気がついたら夢中で拍手をしていた事、ホールを出て地下鉄の代々木公園駅までの道のりを、演奏を反芻する余裕も無く、
ただ呆然と歩いた事が非常に記憶に残っている。
このコンサートで、私は一発でヤマカズ・ファンになってしまった。
 
山田一雄という指揮者は、その業績を見れば充分「巨匠」と呼ぶにふさわしい人なのだが、この人には「巨匠」とか「大指揮者」といった類の仰々しい呼称が全く似合わない。
ヤマカズさんには、「演奏に熱中しすぎて指揮台から転落」『演奏箇所がわからなくなり、オケの楽員に「今どこやってるんだっけ?」と訊いた』
『「運命」と「田園」を振り間違え、しかも後日その事が話題になった時に「我々は日常たくさんの曲目を演奏してるんだから、その位の間違いは勘弁してよ」と語った』等々の、
笑えるエピソードが目白押し。その手のエピソードが、「まあヤマカズさんだから仕方ないよね」と、あくまで肯定的に語られるところが、この人の人徳であり、偉大さなのだろう。
私が彼のコンサートを聴く最後の機会となったのは、東京都響を振ったレスピーギの「ローマ三部作」。
その時も、独特のわかりにくい指揮ぶりにオケが混乱したか、「ローマの祭」の冒頭の「チルチェンセス」でアンサンブルが崩壊寸前となりヒヤヒヤさせられたが、
最後には怒濤の盛り上がりを見せ、聴衆ヤンヤの大喝采・・という、実にこの人らしいコンサートで、良い思い出となった。
 
さて昨今のヤマカズ・ブームの中で、多数の未発売音源が商品化されたが、私が感銘を受けたN響のコンサートが何とDVD化されたのにはさすがに驚いた。
迷わず入手したものの、自分が感動したコンサートを25年も経過した今、もう一度見る事は結構コワイ。
あまりにも「思い出」として自分の中で美化されていないか、もう一度聴いて「何だ、この程度の事に感動してたのか」とガッカリしたりしないか・・・・
でもそんな心配は不要であった。最初から画面に釘付け状態。あの日の感動がまざまざと甦った。第2楽章や第4楽章の、まさに鬼気迫る演奏ぶり!
 
このDVDには、他に「曼荼羅交響曲」(この名曲の映像が残っている事自体、本当に貴重だ)やモーツァルトの名演も収録されているが、
なんと言っても山田が死去する前年の1990年にNHK教育テレビで放映されたドキュメンタリー「喝采!指揮棒ひとすじ 山田一雄指揮者生活50年」が必見である。
これを見ると、ヤマカズさんの尋常でない音楽への情熱がどこから生まれたのか、そして彼を含む第2次大戦を生き抜いた音楽家たちが、
戦争という極限状態の中で如何に身体を張って「日本の西洋音楽演奏史」を絶やさないよう尽力してきたのかが、見る人の胸に迫る事だろう。
 
全てを見終わって、私は本当にヤマカズさんに感謝したくなった。
ヤマカズ先生。貴方は私、猫丸に本当に大切な事を教えて下さいました。
それは『「技術的に正確」とか「学術的に正しい」なんて事よりも、音楽にはもっと大切な事があるんだ』という事です。
もし先生のステージに接する機会が無かったら、私がここまで音楽好きになり、果ては音楽をメシのタネにする事など無かったかもしれません。
先生の芸術と、数々の爆笑エピソードは不滅です!
ありがとうヤマカズさん!

diskunion新宿class 牛丸

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