猫丸しりいず第92回

◎ショスタコーヴィッチ:タヒチ・トロット(二人でお茶を)・ジャズ組曲第2番
 
 リッカルド・シャイー指揮 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
(国内LONDON POCL5255 旧規格・廃盤/現役盤はUCCD3530) 
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ショスタコーヴィッチという作曲家に対して抱くイメージには、世代によって結構な「ズレ」があるのではないだろうか。 
 
 今20歳代以下の若い方々にとって、ショスタコーヴィッチは最早ベートーヴェンやチャイコフスキーと同等クラスの「評価の確立した大作曲家」なのだろうと想像されるが、私を含め、まだショスタコやソ連が「現在進行形」の頃からクラシックを聴いている世代の皆様には、彼は「大作曲家」として祀り上げられるにはまだ「生乾き」に過ぎるのではないかとお思いの方が多いのでは・・・と私は思う。
 
何しろ私が生まれた時、彼の交響曲の「14番」「15番」はまだ世に出ていなかったし、クラシックを本格的に聴き始めた中学生の時でも、彼の「交響曲全集」といえばあの世紀の名盤、メロディアのコンドラシン盤しか選択肢は無かった。ハイティンクによるDECCAの全集が完成した時は「西側(今や完全に死語)初の交響曲全集」として大変な話題になったものである。それから四半世紀の間に彼の「交響曲全集」が巷に溢れるようになるとは、正直当時は想像も出来なかった。
 
大作曲家と呼ばれる人々の中で、彼ほど「政治」や「体制」に翻弄された人もいない。ただ、彼の作品に付きまとう「政治の影」をある程度リアルな感覚で感じられるのは、ソ連や東欧諸国の混乱や崩壊をリアルタイムで目にし得た、私の年代当たりがもう最後かもしれない。
 
ショスタコーヴィッチは「血の日曜日」の翌年、1906年に生まれた。レーニンによる革命の成就は1917年、亡くなったのは1975年。まさに「ソ連と共に生きた」人だった訳で、
彼の音楽が政治と不可分なものになってしまったのは「宿命」なのだろう。何しろ、15曲の交響曲の中であまり「政治の影」が感じられないのは、「衝撃のデビュー作」第1番と、最後の第15番だけ・・という有様である。そうなると、もしもこの天才が「この時代のソ連」に生まれていなかったら、一体どうなっていたのだろう・・・とつい考えてしまうのは、私だけでは無いのではないか。
 
私は彼の「破格の天才」ぶりを、むしろ政治色の無い作品から感ずる事が多い。交響曲の1番、15番もそうだが、思わず「やられました。脱帽です。」と言ってしまいそうになるのが今回のテーマの2曲。「タヒチ・トロット」の元ネタは、ご存じユーマンスの「二人でお茶を」。名指揮者ニコライ・マルコが若きショスタコーヴィッチに、「お前がホントに天才だったら、今流れてた曲を1時間以内にオーケストラ曲にしてごらんよ」と冗談半分で言ったら、何と40分で仕上げてしまった・・・・というエピソードで知られる作品。まあ、この手の話は後からいろいろ「脚色」される事も多いので、話半分に聞いた方が良いのかもしれないが、それでも大変な傑作である事に疑いは無い。この曲は短く単純なフレーズの繰
り返しなので、覚える事は容易である。しかし構造がシンプルな分、オーケストレーションの腕前がストレートに試される事になるのだが、ショスタコのアレンジはまさに「天才的」の一言。管・弦・打楽器の「出し入れのタイミング」が絶妙で、僅か3分半ほどの演奏時間の間に「よくぞこの箇所でこの楽器を・・」と感嘆する瞬間が連続する。しかも繰り返し聴くたびに何かしら新たな発見があるのだ。
 
そして「ジャズ組曲第2番」。まるで植木等の昔の映画のようなスチャラカで陽気な「行進曲」や、古今東西のワルツの中で最高傑作の一つと確信する楽しくも哀しい「第1ワルツ」などの珠玉の小品8曲から成るこの組曲も、まさに真の天才にしか出来ない偉大な仕事。ちなみにこの曲、「政治」と「自己の芸術」のギリギリの融合を図ったような、あの「交響曲第5番」と同時期の作品。彼には他にもシリアスな作品とポピュラーな作品を同時進行で手掛けているケースが多く、その多彩な才能を見せ付けられる思いだ。
尚、この2曲に関しては、今回ご紹介のシャイー盤がオーケストラの上手さ、録音の素晴らしさで突出しており、文句無しのオススメ盤。
 
それにしても、もし「ソ連」という国家が生まれなかったら・・ あるいはラフマニノフやストラヴィンスキーのようにロシア(ソ連)を飛び出していたら・・・・
ショスタコーヴィッチは一体どんな作曲家人生を歩んだのか? 「交響曲第2番」や「鼻」の路線のままアヴァンギャルド方面に突っ走ったか、「交響曲第1番」の一発屋で終わったか、はたまたコルンゴルドやカステルヌオーヴォ=テデスコのように、ハリウッドに渡って映画音楽の大家になったか・・・ 想像は尽きない。
人はどんな場所に、どんな時代に生まれるかを自ら選択する事は出来ない。その事をまさに実感させるショスタコーヴィッチの人生。果して50年後、100年後の彼の評価はどうなっているのだろうか・・・?
 

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