猫丸しりいず第97回

◎シェーンベルク:管弦楽のための変奏曲
チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」
 
ダニエル・バレンボイム指揮 ウェスト・イースタン・ディヴァン・オーケストラ
(国内DECCA   UCCD1299)

 
10575898.JPG
今回は個人的な思い出を綴る事をお許し頂きたい。
 
小学生の頃(1974~5年)、短期間海外に住んだ事がある。場所は中東レバノンの首都、ベイルート。古くから地中海に面した貿易都市として栄えたこの街は、当時中東諸国への窓口として、ちょうど今のドバイのような存在であった。
 
風光明媚で、アラブとヨーロッパの文化がうまく溶け合ったこの街は本当に快適で、私は大好きだったのだが、程なくこの国の抱える厳しい現実を目の当たりにする事となった。
南でイスラエルと国境を接するこの国には、多くのパレスチナ難民が流入し、いわゆる「難民キャンプ」が各所にあった。首都ベイルートの郊外にもそれは存在したのだが、時々イスラエルの戦闘機がキャンプを急襲する事があった。その時は戦闘機の起こす衝撃波が響き渡り、確か「空襲警報」の如き警戒サイレンが鳴っていたような記憶がある。
「今、現実に目の前にある戦争」。これはショックだった。しかし、これだけでは終わらなかった。
 
1975年の4月には、この美しい国と街を崩壊させる事になる内戦が勃発した。キリスト教徒とイスラム教徒の対立に端を発した内戦は、後にシリア等の周辺国の介入等も招き、まさに泥沼化。街中でも頻繁に銃撃戦や爆弾テロが発生するようになり、家から外出する事すら困難になった。結局、その年の12月に内戦の小康の間を縫って帰国する事となったので、滞在はわずか1年半、普通に生活が送れた期間に限れば数カ月という本当に短い期間の経験だったのだが、この経験がその後の自分の人生に及ぼした影響は決定的なものがあった。何より「何となく均質で平和な島国」から来た小学生には、あまりに重たすぎるテーマを短期間で体感させられる事になったのだから・・
 
「国家って何なのか」「宗教って何なのか」「なぜ人は異なる文化、宗教の存在を受け入れず、殺し合ったりするのか」・・・ その時、子供心に感じたこれらの疑問は、あれから40年近く経った今でも解決出来ていないし、現実の世界は残念ながらますます「異なる文化、宗教」に対して偏狭になりつつあるのは残念としか言いようが無い(特にあの「9.11」以降は)。
 
アラブとイスラエルの対立に関しても、様々な模索は続いているものの、解決の目処は全く見えない。そんな中、1999年にバレンボイムとパレスチナ系文学者エドワード・サイードによって「共存への架け橋」となるべく設立された「ウェスト・イースタン・ディヴァン・オーケストラ」。ゲーテの著作「西東詩集」から名前をとったこのユース・オケは、イスラエルと
、そしてこの国と対立を続けるアラブ諸国(レバノン、ヨルダン、シリア等)出身の若い音楽家たちが集まった団体。何世代も前から憎しみ合う国同士の出身者が、同じ集団で共に音楽に取り組む。この事がどんなに凄い事か、短期間でも「対立の現場」に身を置いた私には多少なりとも実感できる。
 
ご紹介の盤は、2007年8月にこのオケがザルツブルク音楽祭に登場した際のライヴ。
最初のシェーンベルク。超難曲として知られるこの曲を、ライヴでここまでやってしまうのには感心。メンバーたちの技量の高さが充分に窺える。後半の「悲愴」も、第1楽章や第4楽章には時々ハッとさせるような素晴らしい瞬間があり、なかなかの秀演。ただ、この手のユース・オケに共通の弱点なのだが「ここ!」というキメどころで今一つ表情の彫りが浅く、指揮者の要求にまだ100%応えきれていないと感じられるのも事実。しかし、このオケの「意義」を思えば、そういうわずかな瑕疵をあげつらう事は意味が薄い。
 
中東諸国への関心の薄さと比例してか、このオケの活動も日本ではほとんど関心を持たれていないように思うが、私は彼らの今後に大いに注目している。もちろん、こういう活動が即座に問題の解決に結びつくと思う程私は楽天家では無いし、世界中に散在する様々な対立には、単純な文化、宗教の違いだけでは無く、経済格差の問題等、より現実的な要因も絡んでいるので、一筋縄では行かない問題なのも確かだ。
しかし、こういう「対立」には、相手とキチンと接した事もないのにただ感情的に「アイツラ嫌い」と思いこんでいるケースも多いのではないか。敵対する国々の人が「共同作業」を行なう事で「何か」をつかみ取り、不毛な敵対の連鎖を少しでも減らす事に繋げてほしいと心から思う。


diskunion新宿classic   猫の王寺様ニューヨークへ行く
 

Entrance







Classical Broadcasting for YouTube



Topics





About


 

diskunion Link








 

















Calendar

07 2017/08 09
S M T W T F S
1
12
13 15
20 21 23 24 25 26
27 28 29 30 31

Search

カウンター

Copyright © diskunion Shinjuku Classic-Kan All Rights Reserved