猫丸しりいず第98回

★ジス・イズ・ミスター・トニー谷
 
トニー谷、宮城まり子(歌)
(国内ビクター VDR1454)
 
★バーンスタイン:ウェスト・サイド・ストーリー(全曲)
 
ケネス・シャーマーホーン指揮 ナッシュヴィル交響楽団 他
(NAXOS 8559126)
3f649139.JPG

先日の話。
近所の西友に買い物に行ったら、店内に掲示してあるポスターに目が釘付け。

モデルさんの扮装といい、キャッチコピーといい・・・・
「オーッ! これは! トニー谷ざんす!!」
それは明らかに戦後の昭和を代表する芸人、トニー谷(1917~1987)のパロディであったのだ。
 
トニー谷は、インチキ英語を駆使し、毒舌を吐き、リズムに乗ってソロバンをかき鳴らすという珍芸でまさに一世を風靡した人(赤塚不二夫の「おそ松くん」に登場する「イヤミ」は彼がモデルという説もある)。その後の日本のお笑い文化に長期に渡って絶大な影響を及ぼした事から考えると意外だが、実は彼の全盛時は非常に短く、1950年代前半の3~4年でしか無い(私が子供の頃テレビで見た彼は、ただの「晩年の姿」にすぎなかったようだ)。フルトヴェングラー、ワルター、トスカニーニ等々の「いにしえの巨匠」が最後の輝きを放っていたのと同じ頃、そんな「昔」の芸が後世にこれ程大きな影響を残す・・・。
その事実は、トニー谷という人の破格の天才ぶりを示しているように思う。
 
彼が亡くなった年に、大瀧詠一のプロデュースで世に出たアルバムがこの「ジス・イズ・ミスター・トニー谷」。聴いて即座に感じられるのが、彼の天才的なリズム感の良さ。
「言葉の機関銃」のようなスピード感ある歌を、全く崩れる事無く歌いきる「ブクブク・マンボ」はまさに圧巻! 「ソロバン芸」もダテでない。モートン・グールド当たりに是非「ソロバン協奏曲」を作ってもらいたかった・・・と思う程の妙技。あまりにシュールな「チャンバラ・マンボ」にも大爆笑。とにかく全ての芸に「常軌を逸したブッ飛び度」が感じられ、如何に天才のトニーであってもここまでアクの強烈な「キレた」芸を長期間続けられなかった事も何だかうなづける。
 
このアルバム、第1曲がトニーの代表曲「さいざんすマンボ」。そして前述の「チャンバラ・マンボ」「ブクブク・マンボ」と続く「3打席連続マンボ」となっているのが誠に印象深い。
あの歴史的ヒット「マンボナンバー5」は1949年に生まれているが、1950年代にアメリカ、そして日本で起きた「マンボ・ブーム」の一つの象徴とも言える(ちなみに美空ひばりの「お祭りマンボ」もこの時期、1952年のヒット曲)。
 
クラシック界の「マンボ!」と言えば、これはもう文句無し。「ウェスト・サイド・ストーリー」。
 バーンスタイン(1918~1990)がこの曲で大ヒットを飛ばしたのは1957年だから、トニー谷の短い全盛時と時代的に非常に近い。また、トニー谷とバーンスタイン、生没年をご覧になればお分かりの通り、実はこの2人、生きていた時代がほぼピッタリ重なっている。同じ時代に太平洋の両岸で「時代の寵児」となった二人だが、1970年代以降にヨーロッパにも活動の拠点を広げて「王道」を歩んだレニーに対し、同じ頃テレビに進出して「第2段階」を目指したトニーが結局中途半端で終わった感があるのは、彼のあまりに「攻撃的」な芸が、テレビ時代にはもう合わなくなってしまったからだろう。如何に天才でも、「時代の壁」を突き抜ける事は容易ではないらしい。
 
「ウェストサイド」の全曲盤と言えば、何と言ってもDGの自作自演盤が「定番」だ。確かにこの録音、オーケストラは超絶的に上手いし、歌手も充実。隙の無い名演なのは間違いない。しかし、私はこの録音のどこかに何か一つ「足りない」ものをずっと感じていた。
その「足りないもの」が何かは、このNAXOSのシャーマーホーン盤を聴いて明らかになった。この盤、完璧無比のDG盤に比べ、全ての点でB級臭フンプンである。しかし、この演奏、どこか澄ました「山の手」風のDG盤に無い、「下町」風の猥雑なエネルギーに満ちているのが実に魅力的。日本橋大伝馬町に育った「江戸っ子」トニー谷の繰り出す、あの歯切れ良く、しかもムチャクチャなパワーに満ちた芸に通じる痛快さに溢れているのだ。
 
主役の2人から脇役に至るまで、歌手陣も好演。この曲の中で私の特に好きな「アイ・フィール・プリティ」や「クラプキー巡査殿!」も実に素晴らしい。生きがいいのに、要所もビシッと締められており、粗雑な感じに陥っていないのは隠れ名匠シャーマーホーンのウデであろう。
 
それにしても、買い物に来ている若いお母さん達には恐らく全然ピンと来ないであろうトニー谷というキャラを大胆にも起用してしまった西友さんの蛮勇(笑)には大拍手だ。きっと私の様に、久々に「トニー萌え」をした人も何人もいたんじゃないだろうか。
トニーさん、アンタはやっぱり偉大ざんす!



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