猫丸しりいず第105回

猫丸しりいず第105回
 
◎ハイドン:十字架上のキリストの最後の七つの言葉
 
 リッカルド・ムーティ指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(国内タワーレコード/PHILIPS PROA204~5)

 
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あの東日本大震災が発生した3月11日の午後3時前、遅い昼休み中だった私は、新宿三丁目から歌舞伎町方面に渡る靖国通りの横断歩道付近で地震に遭遇した。
 
大きく揺さぶられる長時間の揺れに「これは尋常では無い」とは思ったものの、建物が崩壊したり、地割れが出来たり、ガラスが割れたり・・といった類の大きな被害が周辺で発生しなかった事もあってか、その直後に店に戻るまで地震の規模を実感する事はなかった。私の周囲にいた人々(日本人たち)も皆驚いた表情はしていたものの、パニックに陥っている人は見当たらなかった。「世界有数の地震国に住む日本人って、地震に関しては相当鍛えられているんだなあ」と思ったものである。
 
それと大きな対照を見せていたのが、外国人観光客たちの大変な狼狽ぶり。涙目で悲鳴をあげる人、顔面蒼白で腰が抜けたようにその場に座り込む人・・・。恐らく彼らの多くは地震のあまり発生しない地域から来日し、「地面が揺れる」という現象自体を理解出来ない人々ではないか・・・。そう思わせる光景だった。
 
地震の発生するメカニズムから言っても仕方の無い事だが、この地球上における地震の発生頻度は地域によって極端な偏りがある。例えば、これだけ地震が頻発する日本列島や台湾のすぐそばにありながら、中国の沿岸部や香港で地震が発生する事は稀であるし、南北アメリカ大陸でも西側と東側では発生頻度が全然違う。
ヨーロッパ方面はどうかと言えば、大地震の発生はイタリア、ギリシャ等の南ヨーロッパに集中しており、イギリスやドイツ等の北・中部ヨーロッパでの発生は非常に少ない(南ヨーロッパの地震多発地帯を東にたどると、トルコ、パキスタン等々の西アジアの国に達するが、これらの国々でも大地震が度々起こっている)。
 
考えてみると、クラシック音楽に「地震」を題材にしたものはほとんど見当たらない。あまりにその規模、範囲、威力が巨大であり、音楽で描くことが難しいからかも知れないが、
クラシック音楽が地震の極めて少ない北部、中部ヨーロッパを中心に栄えた文化である事とも決して無関係では無いと思われる。
私の知るほぼ唯一の「地震曲」がハイドンの「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」。この曲は、スペインの有名な司祭からの依頼によって作曲されたのだが、今のようにメディアの発達していない当時にはるばるスペインからの作曲依頼があったという事実は、当時のハイドンの人気がいかに凄いものだったかを想像させる。「厳か」という言葉がまさにピッタリの「序奏」に始まり、その後にゆったりしたテンポの7曲のソナタが続く・・という実にユニークな形態のこの名作の最後に出現するのが「地震」を描いた終曲。
 
これは、キリストの死の直後に地震が起こって墓の口が開いた・・という伝説を描いた曲なので、自然現象としての「地震」を描写したものとは言い難い。しかし、緩やかで荘厳な曲が8曲連続した後、突如プレスト、ハ短調で始まるこの曲のインパクトはまさに絶大。
 「震源の浅い直下型大地震」という感じで、激しい揺れに伴って地面に裂け目が出来・・・という情景が目前に迫るようだ。現在のオーストリア、ハンガリー、イギリスといったエリアを活動の拠点とし、恐らく生涯に亘って「ホンモノの地震」をほとんど体験しなかったと想像されるハイドンが、こういう曲を遺した事はこの人のイマジネーションの凄さと天才ぶりを再認識させるようで、非常に興味深い。
 
この「七つの言葉」はハイドンにとって中々の成功作、そして自信作だったようで、弦楽四重奏版をはじめ、様々な編曲バージョンが生み出されているが、今回ご紹介のムーティ盤はオリジナルの管弦楽バージョン。ヨーロッパ屈指の地震国イタリアをネタにしたR・シュトラウスの「イタリアから」とのカップリングになっているのは何かの縁か。そう言えば、地震国イタリアの作曲家の作品の中にも地震を素材とした楽曲は見当たらないのだが、ご存じの方はいらっしゃるだろうか??

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