猫丸しりいず第109回

★猫丸しりいず第109回

◎モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ第28番ホ短調
 
ヘンリク・シェリング(Vn) イングリッド・ヘブラー(P)
(蘭NEWTON CLASSICS 8802022)
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以前、作曲家の西村朗さんと吉松隆さんの対談を読んでいたら、西村さんがモーツァルトに関してこんな発言をしていた。その内容は、実は私自身もずっと感じていた事で、「プロの作曲家でも同じように感じていたのか」と驚いてしまったのだが。
 
西村さん曰く、「モーツァルトはメロディで売っている作曲家では無い」。そして「モーツァルトは作曲する際に同時に多声部の進行を瞬時にイメージ出来ていたと思う」。後者はともかく、前者に関しては「エッ、そんな事ないよ。モーツァルトには名旋律はいくらでもあるじゃないか」という疑問の声が上がりそうだ。それは確かにそうなのだが、彼は例えばチャイコフスキーやマスカーニのように美味しい旋律をオクターブ・ユニゾンでやたら強調したり、プッチーニのようにアリアの伴奏のオケにアリアと同じ旋律を朗々と歌わせて「俺のこの名旋律を聴けい!」と言わんばかりの振る舞いをしたりはしない。
 
西村さんは「着メロにならない」という形容をしているが、モーツァルトはあまり「旋律+付属品」みたいな書き方はせず、旋律以外の声部が巧妙にポリフォニックに動く中でメインの旋律が美しくクッキリと浮かび上がってくる・・・という作品が多いように思う。
 
高校生の時、某在京オケのリハーサルを見せて頂く機会があった。その際の曲目がモーツァルトの「40番」。第1楽章のアタマの部分をパート毎に分奏させる・・という練習をしていたのだが、その時曲の冒頭の超有名なメロディが他の声部を伴わずに「裸」の形で演奏されるのを聴いて、私はア然としてしまった。あの素晴らしい旋律が「一糸まとわぬ」姿になると、何だか全然輝きを失ってしまったのである。ところがそこに少しずつ他の声部が重なっていくと、あたかも「お化粧をしてドレスを着ました」みたいに旋律がどんどん「輝き」を増していく。これには本当に驚き、「アマデウス。コイツ・・・ 天才だな・・」と痛感。
 
 そういえば、この「40番」はあらゆるクラシック作品の中でも最も人口に膾炙したものであるせいか、イージーリスニングにも多くアレンジされているのだが、これほど原曲に近い形でアレンジされているケースも他にあまり見られない。「単に旋律だけ抜き出しても、モーツァルトの魅力は伝わらない」という事がイージーリスニングのミュージシャン達にも直感的に理解されているからだろう。
 
彼の凄さは、管弦楽のように多数のパートがある作品だけではなく、パートの数が少ない室内楽でもアッと驚く「仕掛け」を多々感じさせる点。例えばヴァイオリン・ソナタの名作「28番」。冒頭の哀しげな名旋律が非常に印象的なのだが、この旋律もこれだけ「裸」にしてしまうと何だか「貧相」だ。ところが、よく聴くと第1楽章に何度も登場するこの旋律、ヴァイオリンは同じフレーズを弾いているのだが、伴奏のピアノはその都度別の動きをしているのだ。ある時はヴァイオリンと同じ旋律を奏でて、クッキリと旋律のラインを浮かび上がらせたかと思えば、またある時は暗い和音を投げかけて旋律に不吉な翳りを漂わせたり・・・。その事によって、同じはずのヴァイオリンの旋律が全く違う色合いを帯びて
聴こえてくる。
 
もちろんこうした手法はモーツァルトの専売特許では無い。しかし、いかにも「仕組みました」的な感じが無く、実に自然な流れの中で最大の効果をあげているのにはヤッパリ瞠目させられる。この「28番」をはじめとする彼の名曲を聴き込む度、「モーツァルトは作曲する際に同時に多声部の進行を瞬時にイメージ出来ていたと思う」という西村さんの発言に、ますます私は大きな共感を持ってしまうのだ。
 
モーツァルトのヴァイオリン・ソナタと言うと、グリュミオー&ハスキルというまさに「別格」の名盤があるけれど、今回は同じPHILIPS音源ながらイマイチ地味なシェリングとヘブラーの名演盤をご紹介。実にこの2人らしい高貴かつ暖かい演奏で、「28番」はモチロンの事、「25番」「42番」などもスバラシイ。24番以降の主要16曲を集めた4枚組だが、どの曲も聴いた後に「剣道の朝稽古」的なキリリと締まった爽やかな後味が残る。ちなみにこれはオランダのNEWTONCLASSICSという新興レーベルからの復刻盤。このレーベル、ポリグラム系の音源を中心に様々な懐かしの名盤を復刻している注目株。メジャーレーベルに景気の良い話題が乏しい中、選りすぐりの(しかも忘れられかけた)音源をライセンス復刻するこの手の
レーベルの活動は、今後ますます要チェックだ!

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