★猫丸しりいず第110回

●猫丸しりいず第110回
 
◎シューベルト:交響曲第5番・第8番「未完成」
 
 カール・ベーム指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(豪DECCA/ELOQUENCE 4803794)
 
◎モーツァルト:交響曲第40番
 
 ブルーノ・ワルター指揮 ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団
(国内SONYCLASSICAL SRCR1570)
44f5aa1a.jpeg
子供の頃の記憶って、どの位「正確」なものなのだろうか。
 
 私は小学生の頃、東京新宿の百人町という街に住んでいた。引っ越して以来疎遠になっていたその街を30年ぶりに訪れた時の事。さすがに建物はあちこち変わっていたものの、基本的な町並みは昔のまま。私はとても懐かしくなり、ふと、かつて住んでいた場所から高田馬場の駅の近くの小学校までの通学路を歩いてみようと思い立った。5年以上毎日のように通った道なので、道のりは完全に覚えていたのだが・・・。
 
実際に歩いてみて、2つの事にビックリさせられた。1つ目、「道が狭い!」。当時は全く普通の広さに思えていた通学路が、なんと自動車1台通るのがやっとのような狭隘な道だったとは・・・。道理で先生が口を酸っぱくして「クルマに気をつけろ」と毎日言っていた訳だ。そして2つめ、「すぐに到着」。当時小学校までは歩いて15分はかかり「非常に遠かった」という印象が私の記憶には刷り込まれていたのだが、大人の足で歩いてみると、その半分の所要時間で着いてしまった。「そうか、子供の頃の記憶って、あくまでも子供のカラダで体感した通りのものなんだな・・・・」と、その時痛感した次第。
 
それでは「音楽に関する記憶」はどうなのだろうか。今回のテーマの「ベームの未完成」と「ワルターの40番」は、いずれも物心ついて初めて自分の接したクラシックの録音。自宅にあったレコードは30センチLPより一回り小さい古色蒼然とした10インチ盤で、 指揮者の名前が「カール」じゃなく「カルル・ベーム」と表記されていた事を、今でも鮮明に覚えている。
 
今年この2つの録音を、約40年ぶりに聴く事となった。耳がある意味全く「無垢」だった子供の頃と違い、何十種類もの演奏を聴いた今再び接する懐かしい音源。一体どう今の自分の耳にはどう聴こえるのか・・・・。
 
聴いた結論。『子供の「耳」と「審美眼」は侮れん』。
これまでにこの「猫丸」でもふれた事のあるカッチェンのラフマニノフやサージェントのムソルグスキーもそうだったが、幼い頃に聴いて感動した演奏を大人になって久々に聴き直してガッカリした記憶というのが私には全然無い。ベームの「未完成」は1954年録音のモノ盤だが、ゆったりしたテンポで実の彫りの深い名演である。ステレオ録音ではあまり目立たない低弦のピチカートがモノゆえにハッキリ聴こえ、それが絶妙な味を添えている。幼い時にこれを聴いて感じた「キレイなのにとても怖い曲」という印象が、まさにこの演奏の特色であった事を痛感。夢見るような美しい部分と、奈落の底に落ちるような恐ろしい部分との「段差」が非常に大きいのである。カップリングの「第5番」は今回初めて聴いた
が、これまた落ち着いたテンポで進められる中々の名演。「古き良き時代のウィーン」という感じのオケの響きも美しい。この地味な存在の音源をよくぞCD化してくれたと思う。
 
1953年録音のワルターの「40番」は、とても自然体で、曲そのものの良さをじっくり味わえる名演奏。この「自然体」という印象も、幼い時に感じたものと一致していた。ただ、今回「39番」や「41番」と合わせて聴いて感じたのは、有名なステレオのコロンビア響盤に比べ、とても「現役感」溢れる活き活きした演奏である点。ワルターは1957年に心臓疾患で指揮活動から引退してしまったので、「現役指揮者」としてのかなり末期の録音になるのだが、この時期のニューヨーク・フィルとの録音は例えばブラームスの交響曲なんかを聴いても「オッ! ワルター、攻めてるな」という印象が強く残る。無論コロンビア響との録音の素晴らしさを私は大いに認めた上で、ニューヨーク・フィルとの旧録音があまりに「陰
の存在」になり「無視」されているように思われる事は残念でたまらない。
 
子供の頃に接した文学や音楽は、まさに一生の宝になり、しかも「オトナ」になって再度接すると、また違った味わいを楽しめる・・・・という事を実感した私。
思うに、生まれた時から身の回りに「情報」が溢れかえっている今の子供たちは、文学や音楽にじっくりと接する時間があるのだろうか。老婆心ながら、ちょっと心配になってしまう不肖猫丸ではある。
 
※今年一年、ご愛読ありがとうございました。来る2012年も懲りずに続く「猫丸しりいず」を
引き続きよろしくお願い申し上げます!


diskunion新宿classic いつもあなたと・・猫丸。
 

Entrance







Classical Broadcasting for YouTube



Topics





About


 

diskunion Link








 

















Calendar

07 2017/08 09
S M T W T F S
1
12
15 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31

Search

カウンター

Copyright © diskunion Shinjuku Classic-Kan All Rights Reserved