猫丸しりいず第114回

●猫丸しりいず第114回
 
◎ピツェッティ:交響曲イ調
 
 ガエターノ・コメリ指揮 紀元二千六百年奉祝交響楽団
(国内ALTUS ALT103~4)
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ブリテンの名作「鎮魂交響曲」の解説には大抵、「この曲は日本の紀元2600年の奉祝曲として書かれた5曲の楽曲のうちの一つである」という記述がある。昔私はこの記述を読んだ時、「他の4曲は一体どんな曲なんだろう」という興味を持った。
 
1940年、この年が神武天皇の即位から2600年に当たるとして、当時の日本政府が開催した国威発揚の一大イヴェントで演奏するために、6か国に作品が依頼された。その6か国の中にはアメリカも含まれていたが、当時既に日本との関係が悪化していたアメリカは、この依頼を拒否(日米開戦はこの翌年の暮れの事)。残りの5か国からは作品が寄せられた。
 
諸般の事情で演奏されなかったブリテンの作品以外の4曲は実際に演奏され、録音も遺されているのだが、昨年この音源がALTUSから発売され初めて容易に入手出来るようになった(片山杜秀さんの気合の入ったライナーノーツがいつもながら非常に面白い)。大怪作として存在だけは知られるR.シュトラウスの作品や、マルティノン指揮のEMI盤等で普通に聴けるイベールの「祝典序曲」の他、ハンガリーとイタリアの作曲家による交響曲がその4曲。ハンガリーの作曲家ヴェレシュの「なんちゃってバルトーク」風の交響曲もなかなか面白い作品だが、何といっても私に一番強烈な印象を残したのは、イタリアの作曲家イルデブラント・ピツェッティ(1880~1968)の「交響曲イ調」。
 
イタリア近代の管弦楽作品と言えば、永らくレスピーギ(それもほぼ「ローマ三部作」のみ)の独り舞台であった。ようやく最近カセッラ、マリピエロ等々同時代の他の作曲家の作品にも光が当たりつつあるが、そんな中でもピツェッティの曲はまだまだ地味な存在に甘んじている。教育者として大きな足跡を遺し、カステルヌオーヴォ=テデスコやニーノ・ロータの師匠でもあるこの人の作品、確かに響きも佇まいもどこかしら古雅で地味で、ちょっと取っつきにくいのは事実だが、その渋さには独特の魅力がある。
 
彼の作品を「イタリア風のセザール・フランク」と形容した人がいて、ウン結構当たっているかも、と思った事があるのだが、この「交響曲」もグレゴリオ聖歌を思わせる厳かな響きが全体を支配し、「奉祝曲」としてはちょっとシブすぎるかなあ・・と思わせる程。この曲で特に印象的なのが終楽章。レスピーギの「ローマの松」の終曲の輝かしい勝利の行進曲を、そっくり「裏返し」にしたような、「滅びの行進曲」という趣きの曲なのである。作曲者が、「日本から依頼された曲なんだから日本風に」なんて考えた筈も無いと思うのだが、例えば「平家モノ」とか「赤穂浪士」とかの「滅び系」の時代劇のバックに流したら恐らくぴったりフィットだろう、と想像させる。それにしても、5年後の日本の無残な敗
戦をまるで予言したようなこの曲が、同じ敗戦国イタリアの作曲家から「奉祝曲」として贈られた事には不思議な運命を感じずにはいられない。
 
この曲、実は初演メンバーによる1940年の録音以外未だに音源が無い。かなり聴きやすい音に改善されているものの、70年以上前のSP録音の復刻であるから音にはどうしても限界がある。ヴェレシュの曲ですら新しい録音が出ているというのに、この名作が顧みられる事が無いのは残念であると同時に不思議であるが、楽譜の散逸、権利関係など何らかの事情があるのだろうか。新録音熱望の隠れ名作である。
 
余談であるが、このALTUSのアルバムには昭和天皇の「終戦の詔書」(いわゆる玉音放送)が全編収められている。ドキュメンタリー等でその断片は何度となく耳にした「玉音放送」だが、その全てを耳にしたのは私は初めてであり、非常に興味深かった。全編聴いてみると「耐え難きを耐え、忍び難きを忍び」という有名な文言がどういう文脈の中で出て来たのか、昭和天皇はこの放送で人民に何を伝えたかったのかが非常に良くわかり、近代史に興味のある方は必聴の貴重な記録である。また、私が意外に感じたのが昭和天皇の声の「若々しさ」。考えてみると昭和天皇は1901年生まれ(ハイフェッツと同い年)なので、終戦の時はまだ40代半ば。声が若々しいのも道理であるが、そうか、昭和天皇は今の自分より若
い30~40代に戦争の時代を経験し、終戦をはじめとする重たい決断を背負ってきたのかと改めて気付き、いろいろと感慨にふけってしまった私であった。

diskunion新宿classic 愛してる・・猫丸
 

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