猫丸しりいず第116回

猫丸しりいず第116回
 
◎フランク:ヴァイオリン・ソナタ イ長調
 
ローラ・ボべスコ(Vn) ジャック・ジャンティ(P)
(国内PHILIPS PHCP9567/旧規格・廃盤)
 
ed72c97b.jpeg
大学生の頃の思い出。
友達とよく通っていた某食堂。いわゆる「街の洋食屋さん」で、値段も安く、何を食べてもハズレが無い貧乏学生の強い味方の店で、中でも定食の付け合せに出てくる炒めたスパゲティ(ナポリタン)が絶品であった。
 
「このスパゲティを腹一杯喰ってみたいなあ・・」と思っていた私は、ある時意を決して店のオバチャンに「特別にこれだけを一品料理として作ってくれない?」と頼んでみた。するとオバチャンはニヤリと意味深な笑みを浮かべ、「ああ、いいわよ。そういうリクエスト多いからね」と快諾してくれた。
 
念願(笑)の「特注スパゲティ」を完食した私に、オバチャンは「ねえ、どうだった?」と感想を求めてきた。以下、私と食堂のオバチャンの会話。
 
「ウ~ン、美味しかったのは間違い無いんだけど・・・。何かが違うような・・・・。」
 
「一体どこを違うと感じたの?」
 
「ウ~ン・・。何と言うか、あの、定食のお皿の片隅で脇役として控えていた時の、あの『輝き』が無くなっちゃったって言うか・・・。『コイツは主役に立たせてはいけなかった』みたいな違和感がどこかに残るんですよね・・・」
 
「ハッハッハ、そうでしょう。みーんなそう言うんだよね。『引立て役』がどんなに大事かわかった?脇役がキチンと仕事しないと、主役が盛り上がらないのよ。だから私はこのスパゲティとか、キャベツの千切りとかの『脇役』にはゼッタイ手を抜かないようにしてるんだよ。まあ、あなたも卒業してオジサンになるまで働くうちにそういう経験を沢山するわよ。そこでわかるのよね、『脇に徹する事で輝く仕事もあるんだ』って」
 
それから四半世紀を社会人として過ごし、様々な経験を経て、私はあの時のオバチャンの言葉の「真実」を深く噛みしめている。食堂のオバチャン、恐るべし!
 
音楽の世界に目を転ずると、「伴奏」という仕事がまさにそれに当たるだろう。何か「主役の付属品」みたいな印象が付きまとう「伴奏」だけど、これが容易な仕事で無い事は、例えばジェラルド・ムーア、アーウィン・ゲージ等々の「伴奏界の巨匠」と言うべき演奏家がキチンと存在する事実を見ても明白である。そして「伴奏」がほとんど「添え物」では無くて「準主役」とも言うべき重大な任務を負わされている曲も色々ある。中でも目立つのがシューマンの「詩人の恋」と、今回のテーマ「フランクのヴァイオリン・ソナタ」。
 
フランクの最晩年に書かれ、古今のヴァイオリン・ソナタの中でも最高傑作と言えるこの名曲。ピアノが「主役」のヴァイオリンと対等(あるいはそれ以上)に渡り合わなければならない箇所が全曲のあちこちにあり、それ故ピアニストがダメだと全てがブチ壊しになってしまうという、誠に伴奏者にとっては「やり甲斐」があり、同時に「怖い」楽曲である(実際、ピアニストがヴァイオリニストの足を引っ張ってしまっている演奏が少なくない)。
 
この曲の私が最も好きな演奏がボべスコ盤(1981年来日時の埼玉・新座での録音)なのだが、その理由は主役のボべスコ以上に伴奏のジャック・ジャンティのピアノの素晴らしさにある。ジャンティはボべスコと長年コンビを組んだピアニストで、息がピッタリ合っている上、決して必要以上に出しゃばる事無くそれでいて自分の音楽をしっかり主張しているのが好ましい。ボべスコが彼に全幅の信頼を寄せて演奏しているのが、全曲にわたって伝わって来る。正直言うとボべスコのヴァイオリンにはもう少し「キレた」感じも欲しいと思わせる箇所もあるが、伴奏者とのコンビネーションの絶妙さが好ましくて、つい何度でも聴いてしまう演奏である。特に終楽章のコーダの素晴らしさは強く印象に残る。ちなみに他
に印象が強い名演と言えば、ド迫力のオイストラフ&リヒテルや、美音で魅せるグリュミオー&ハイデュ当たりだが、リヒテルのピアノはちょっと必要以上に迫力あり過ぎかな?という感がしないでもない。
 
あの食堂のオバチャンの金言、「脇に徹して輝く」。言うのは簡単だけど、「脇の一流」になる事は、「主役の一流」になる事よりもある意味ずっと難しいのかもしれない。「伴奏」って、実は本当に奥深い、大変な仕事なんだなあ・・・

diskunion 新宿 classic  ローラ・ネコマル
 

Entrance







Classical Broadcasting for YouTube



Topics






About


 

diskunion Link








 

















Calendar

09 2017/10 11
S M T W T F S
2 4
9 10 11 12 13
15 16 17 18 19
23 24 25 26 27 28
29 30 31

Search

カウンター

Copyright © diskunion Shinjuku Classic-Kan All Rights Reserved